Nutube差動増幅回路を使ったNutubeアンプの製作

 

KORGのNutube公式サイトでNutube差動増幅回路の回路例が紹介されている割に実際の作例を見たことがなかったので、自分で作って音を聴いてみることにしてみました。

・この回路はどういう動作をしているのか?

Nutube公式サイトの「使用ガイド」で紹介されているNutube差動増幅回路について、どんな仕組みで動いているものなのか一応確認してみたいと思います。

www.korgnutube.com

Nutube差動増幅回路(Nutube公式サイトより)
①Nutube左側の回路→Nutube右側の回路への信号の伝達

Nutube差動増幅回路で左側の回路がどうやって右側の回路に信号を伝えているのかというと、カソードフォロアとしてカソード(フィラメント)から信号を出力しています。大抵のNutube回路ではフィラメントF2はGNDに直結しているためここから信号を取り出すことができませんが、Nutube差動増幅回路ではF2はGNDに繋がらずオペアンプを使用した回路に繋がっています。

オペアンプの回路は何かというと、下記リンクの特開2021-136483回路になります。

特開2021-136483回路

この回路が何なのかについてはリンク先の【発明の概要】以下を読めば分かりますよね?…とも言いにくいので、この回路の動作の様子をfalstadでシミュレートしてみました。

41Ω(フィラメントの抵抗値)に0.7V程度の電圧を安定してかけ続けながら信号を出力する様子が確認できると思います。

https://tinyurl.com/2ea8fxns

 

フィラメントの電位を0Vではなく-2.45Vと設定しているのはグリッドバイアス2.45Vとして動作させることが目的です。特開2021-136483回路リンク先の【実施例1】に詳しく書かれています。

【0015】

出力抵抗112,122の抵抗値をr、フィラメントの抵抗値をrとすると、フィラメント151には、|V−V|/(r+2r)の電流が流れる。フィラメント151を高温にするために、出力抵抗112,122は、フィラメント151と同等の小さい抵抗値にする必要がある。所定の第1直流電圧V、第2直流電圧Vは、フィラメント151を高温にするために必要な電位差となるように設定すればよい。フィラメント151に流れる電流は、第1直流電圧Vと第2直流電圧Vの電位差の絶対値に比例するだけなので、第1直流電圧Vと第2直流電圧V自体の電位は、グリッド152に印加するバイアス電圧を調整しやすいように定めればよい。例えば、グリッド152に信号を入力する際にバイアス電圧を付加する必要がないように、第1直流電圧Vと第2直流電圧Vの電位を設定してもよい。

 

②Nutube右側の回路

左側の回路のカソードからの信号を右側の回路のカソードで受け取っています。この回路のプレートから取り出した出力(OUT2)は①への入力と同相の信号になります。

 

・(蛇足)Nutubeカソードフォロアについて

Nutubeカソードフォロア(Nutube公式サイトより)

Nutube差動増幅回路について理解できるとNutube使用ガイドの「Nutubeカソードフォロア」の意味も分かってきます。(というかカソードフォロアが先にあって差動増幅回路が作れるわけですね)

要するに「差動増幅回路」として紹介されている回路のうちNutube内部の左側の回路のみを使用したものがこの回路です。右側の回路は光っているだけで何もしません。右側の回路のカソードに左側の回路の信号が入り込んできているため、カソードフォロアとして使う場合には「左側の回路で左chの音、右側の回路で右chの音を処理」みたいな使い方はできません。

最初見たときは「右のグリッドに何をつなげればいいんだろう」と思いましたが何もつながないのが正解のようです。

 

・とりあえず製作

だいぶ適当ですがこんな感じで作ってみました。

R7,R8が正しくは2.2kΩだったりR19,R20が実際にはもう少し高い抵抗値だったり実際に組んだものとは定数がちょっと違うところが数か所あります。

 

フィラメントの電源の回路については使用ガイドとは電源電圧が多少違います。要するに図の赤字の「-3.2V」の左にある抵抗をいじって赤字部分の-3.2Vに合わせればいいので、電源電圧を-5Vにする場合にはだいたい固定抵抗R1を1.5kΩ、可変抵抗を500Ωくらいにでもしとけばいいはずです。

 

ということでElecrowに基板を発注してみて作ってみました。

…動きませんでした。

 

オペアンプの±電源部分にテスタを当ててみると設計よりもだいぶ低い電圧になっていて、フィラメントへの電圧も同じく足りないためNutubeが光りもしません。

そもそもDCDCコンバータの辺りから変な音が出ているという明らかな異常があるのでACアダプタ~DCDCコンバータの辺りの時点で電源回路に何らかの異常が起きている感じがするのですが、「前回作ったNutubeアンプがほぼ同じ電源回路で動作してるしなあ」という感じがしてしまいどうも納得いきません。

あと組んでみるとオペアンプの抜き差しの際に明らかに邪魔な位置にコンデンサが配置されているなど配置が良くなかったのも気に入らなかったので、新しく基板を作り直してElecrowに注文し直しました。(こんな雑極まりないことをしていても送料込みで2,000円も追加の費用がかからないので助かります)

 

ということで新しい基板の組み立てに着手。DCDCコンバータを回路から外そうとしたところうまく外れず壊してしまったのでMCWI03-12D15(±15V、オペアンプへの給電用)から手元に余っていたMCWI03-12D12に変更しました。

これで組めばまあ大丈夫っしょ多分…と思っていましたが、この基板でも先の失敗基板と全く同じ問題が発生しました。「設計の何かが駄目だったけど1からやり直したら異常消えたのでヨシ!」で解決することはないことがわかったので真面目に問題の原因を考える必要が出てきました。

とは言っても「問題ありそうな箇所はACアダプタ~DCDCコンバータの辺り」というのは既に明白なわけですし、この辺でDCDCコンバータへの給電を邪魔する可能性がある部品なんて1個しかないわけで冷静に考えたらすぐ答えに辿り着く話でした。今回作った回路は前回記事で制作したNutubeアンプと比較して消費電力が増えたためインダクタL1が定格オーバーになっていたわけです。というわけでインダクタL1を取り外して代わりにジャンパで短絡させたところ動きました。

 

Nutube差動アンプの音ですが、前回制作したNutubeアンプとは傾向の異なる音が出る気がします。前回制作のものは高域に「これが真空管の音ですよ~」という空気感が足された感じの心地良い音でしたが、Nutube差動アンプは全体的に情報を肉付けして厚みを付けたような感じ。平易な言葉で表現するなら「厚い音」になった印象です。アンプを通す前の音と比較すると中低域の存在感が強くなっています。ファーストインプレッションとしては前回製作したNutubeアンプの方が「デジタル機材と違う世界観の音」という感じがして面白く感じましたし録音用の機材として真空管の味を付けるにはあっちの方がいいなと思いますが、Nutube差動アンプはより情報量の多い音に聴こえて音のリアルさで勝っているように感じます。

「オペアンプはエージングで音が変わる」は本当か検証した話

前回記事でNutubeアンプを自作しましたが、このアンプにはオペアンプを使ったブースター回路が入っています。

±15Vで動作するオペアンプを何種類か買ったのでNutubeアンプにどれを使うべきか聴き比べてみたのですが、最終的に僅差で一番良かったMUSES8920を採用しました。

聴き比べたときには「総合的に一番良かったが低域は薄い」とメモしていたのですが、
アンプを使っていると数日間で出音の印象が変わってきて、2~3日後には逆に低域がかなり強く出るようになり、更に数日で低域が強く出る現象もなくなっていい感じの音に落ち着いたように感じました。

とはいってもこの時点では私は「オペアンプエージング」というものをあまり信じていませんでした。

以前作ったディスクリートアンプも全く同じように数日で低域が強くなり戻るという現象があったため、
オペアンプそのものというよりは電源回路等のコンデンサの化学的な変化による音の変化と考えていたのです。

自作したNutubeアンプはオペアンプ1個で動作する設計になっていますが、もともと1つのアンプで2個使う感じで考えていたため手元に予備のMUSES8920があります。ふと気になってオペアンプを予備のMUSES8920に変更して音を出してみたところ、「低域が薄い」という印象が復活しました。この時点で、「もしかしたらオペアンプエージングは本当にあるのかもしれない」と思い、検証してみることにしました。

 

・検証方法

(新品のオペアンプを挿した状態で開始)
DAWから(オペアンプを使用している)Nutubeアンプに音をセンドし、リターンで返ってきた音を録音
② その後24時間程度音楽を慣らし続ける

を繰り返すことにします。エージングが起きているならそれぞれの録音ファイルに何らかの差が出てくるのではないかと思います。

・検証に使用するオペアンプ

ちょうど新品のMUSES01、MUSES02、MUSES8820を購入したのでとりあえずMUSES01でやってみます。

・検証に悪影響がありそうな点

・アンプ全体のエージングの影響は排除しきれない

出音が落ち着いて数日経過しているのである程度安定した動作は期待できると思いますが、それでも組み上がって2週間も経過していないので「オペアンプ以外の条件は完全に同一」というのは期待しにくい気がします。特にこのアンプは電源基板にエージングに長時間を要するといわれるOS-CONというコンデンサを使っているため、このOS-CONのエージングによる音質変化の影響を受ける可能性があります。
 「いや、コンデンサエージングなんか物理的にありえないでしょ」という考えの方もいるかもしれませんが、ないならないでそういう結果が出てくるはずなので、とりあえず「あるかもしれない要素」として挙げるだけ挙げておきます。

・Nutubeのフィラメントとバイアスに給電しているのが電池

今回作ったアンプでは、Eneloopを直列で3本使用してNutubeのフィラメントとバイアスの電圧源にしています。フル充電の状態から動かすと4日程度の連続動作でEneloopが電池切れとなり動作停止するようです。「Eneloopは約1.2V」とはいっても実際には出力電圧は満充電状態からゆるやかに低下していき、正確に1.2Vを出力し続けているわけではありません。なのでNutubeに常時全く同じ電圧がかかっている状態でないことが録音に影響を及ぼす可能性は十分に考えられます。

・検証に使用する音源

検証用の音源は自作しました。とはいっても人の曲のコピーですが。

元の曲はこれです。


・検証

1日目

ネット上で「そもそもオペアンプの音の違いは人間の耳では聞き取れない」という過激な説を唱えている人を見かけたため、念のためMUSES01の検証を開始する前に比較用にMUSES8920の音を録音しました。

様々なオペアンプを試してみて流石にそれぞれ音の違いがあったようには感じたので、この音とMUSES01の音に違いがあれば「オペアンプそれぞれに音の個性はある」というところまでは立証できるはずです。

・MUSES8920

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・MUSES01

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「あれ?MUSES01ってエージングに結構時間かかるって話なのでは?全然いい音じゃん…」と思いMUSES01の音を逆相にしてMUSES8920の音と重ねました。
音Aと音Bが同一だった場合、音Bの位相を逆にして音Aと重ねると音が消えるので、これを試してみて何らかの音が残れば何らかの違いがあるということが確認できるわけです。

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…音が綺麗に消えました。DAWのメーター上でもほぼ完全なゼロです。
つまり、MUSES8920の音とMUSES01の音は完全に同じと言っていいくらいそっくりな波形になっています。
これマジ?MUSES01とかMUSES02買わずにMUSES8920とMUSES8820で終わっとけばNutubeもう一個買えたんだけど…

 

…少し呆然としてしまいましたが、この時点で「はいオペアンプの違いは全部オカルト!終わり!」とするのもつまらないので一応検証を続けていきたいと思います。

ここまで完全一致するとは流石に思っていなかったのですが、MUSES8920はMUSES01のマスプロダクションモデルとのことなので音が似ているというのはまあ当たり前な話ではあると思います。
それと、この回路ではユニティゲイン(ボルテージフォロワ)でオペアンプを使っているので「オペアンプの色」というのはあんまり出ないのではないかとも思っていました。

 

…というかよく考えたらオペアンプエージングが本当にあるならここから伸びるMUSES01の音は半端ないってことじゃないですか?むしろ明日以降が楽しみです。エージングが終わったMUSES01の音を早く聴きたいですね(早口)


2日目

この日は日曜で暇だったので前日より10時間ほど早く録音検証を行いました。
決して1日目の結果に絶望して早くもやる気がなくなったわけではありません。

MUSES01の音ですが、相変わらずMUSES8920で聴いていた時と何が変わっているのかは正直よく分かりません。念のため前日の同オペアンプの録音と位相を逆にして重ねました。

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なんか小さい音が出ています。昨日と全く同じ波形ではありませんでした。

「うおおおお!!!!!オペアンプエージングは実在した!!!!!!!」と言いたいところなのですが、音が変わった要因はオペアンプエージング以外にいくつか考えられます。

・Nutubeのフィラメントとバイアスに給電しているEneloopの消耗による電圧低下の影響

1日目と2日目の録音データは微妙に音量が違いました。おそらくNutubeのバイアス電圧やフィラメント電圧が昨日の録音時点から多少変動している影響です。検証への悪影響として有り得るかなあと予想していた点がそのまま出てきてしまった形です。ちなみに(バイアス変動でNutubeの動作が変わっていると考えれば当たり前ですが)音量レベルを揃えて逆位相でぶつけても音が消えるということはありませんでした。

・アンプ自体のエージング

この点は上で説明しているので改めて説明はしません。実際にはこれは起きていないかもしれません。

 

1日目とは違う意味で困った結果が出てきました。これでは毎日違った波形が出てきてもオペアンプの変化かどうか検証不能です。
より正確な結果を得るためには前回記事の終盤で書いたEneloopを使用せず5V入力を使用する回路を用意したいところではありますが、途中から回路を作り変えてしまうと検証になりません。
とりあえず音が変わるほど電池の電圧が落ちている可能性があるので電池を交換し、翌日も継続して同じように録音はしてみたいと思います。

 

ちなみに、充電完了直後の電池でMUSES01の音を録音し、直後にTL082(1個40円)に交換して再度録音したところ、MUSES01の音とTL082の音には波形としてわずかな違いがあることが確認できました。

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聴覚上ではそれほど大きな差はなかったため高額なMUSES01を購入した意味に改めて疑問を感じはしましたが、「オペアンプを変えても音は変わらない」という主張は正しくないと言えるのではないかと思います。

3日目

前日の結果を考えると当たり前ではありますが、この日の音も前日とはちょっと違いました。
逆相で重ねた結果はこんな感じです。

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ちなみにこの日の録音と1日目のMUSES8920の波形と逆相で重ねると音はほぼ完全に消えました。

on.soundcloud.com

今回の検証はこの辺りでいったんやめようと思います。


・結論

新品のMUSES01を挿したアンプの音をエージング中に1日ごとに録音して比較したところ、3日間のうち2日目だけ何らかの理由により1日目・3日目と違う波形が録音され、1日目と3日目はほぼ同一の波形が録音されました。
2日目だけ音が違うのは電池の電圧変動による影響だと考えられ、1日目と3日目でほぼ全く同じ音が出たということからオペアンプエージングという現象については「起きていない」と判断できるのではないかと思います。

また、MUSES8920とMUSES01の音はユニティゲインで使用する分にはほぼ完全に同じと言っていいくらい似ていることもわかりました。MUSES8920はいつの間にかディスコンになってしまっているらしいので今後もずっと同じ価格で入手できるかは疑問ですが、コスパ的に非常に優れたオペアンプだと思います。

あまり中身のないデータをいろいろ並べたあげく最後にMUSES8920の宣伝になって終わるわけのわからない内容になってしまいましたが、今回の記事はここまでにしたいと思います。
暇ができたらNutubeへの給電部分を改良してまだ新品状態のMUSES02で改めてエージング検証を行いたいと思います。これでエージングを否定する結果が出ればもうエージングについては気にしなくてよくなるかもしれません。

Nutubeアンプを自作してみた話

去年か一昨年にNutubeを買ってきてテストで回路を組んだもののその後ずっと放置していてもったいなかったので、ステレオ仕様のNutubeアンプを組んでみました。使うイメージとしてはシンセやアンプシミュからオーディオIFに入力した楽器の音をこの回路にセンドし、Nutubeを通した音として味付けしてオーディオIFに戻す感じです。音があんまり気に入らなければAxe-FXのセンドリターンにでもつなげてギター用の歪みエフェクターとして使用しようという考えもあり、オペアンプ周辺にスイッチでオーバードライブ回路に変わる仕組みもくっつけておきました。

 

回路の構成としてはオペアンプブースター(スイッチでオーバードライブ回路ON)→Nutube→バッファな感じで、ほぼほぼ基本中の基本みたいな初歩的な回路になっています。ケース加工が面倒なのでツマミ類は極力減らし、EQ機能も付けませんでした。ブースターと言いつつブーストする気もそんなにないのでGainツマミも付けず、調整するときは基板上の半固定抵抗を回す仕様にしています。回路的にはブーストやオーバードライブができることになっていますが、どっちかというと「そういう機能もなくはないバッファ」のような雰囲気です。(正確に言うとNutube回路によって増幅されているので「バッファ」ではありません)

 

一応回路図はこんな感じです。

基板①(オペアンプ基板)

基板①

基板②(Nutube基板)

基板②

基板③(電源基板)

 

基板③

電源はセンタープラスの5Vアダプタを使い、±15VのDCDCコンバータ(2個)を動かしています。
片方のDCDCコンバータは±15Vの電源としてオペアンプに送り、もう片方のDCDCコンバータは-15V出力を接地して+30Vの電源とし、Nutubeのアノードに送っています。NutubeのフィラメントにはEneloop直列3本(公称1.2V×3個=約3.6V)を使用し、フィラメント抵抗は180Ωとしています。

電源アダプタは元々もう少し高い電圧のものを使用する予定でしたが、ちょうどパーツを購入していた時に通販サイトで欲しいDCDCコンバータの在庫が微妙に足りなかったので在庫があった5V入力のDCDCコンバータを使う仕様に変更しました。

 

とりあえず基板をElecrowに発注。2週間程度で到着しました。

 

組み終わり通電してみたところNutubeが光りました。無事動きそうな雰囲気で一安心。


インプット/アウトプット用の端子も取り付けて音を出してみたところ、左右のchでそこそこの音量差があり、オペアンプのブースト調整で音量は揃いましたがこの原因は一体何だろう…と調べてみたところ一か所はんだ付けが不完全なコンデンサがありました。きっちりはんだをやり直したところオペアンプのブーストなしで左右chのボリュームがだいたい一致しました。

 

NutubeデータシートのEa-Ia図を見た感じ、Nutubeのアノード電圧を30Vにするならアノード抵抗は150kΩ~300kΩ程度にするのがよさそうな感じ。自分は150kΩにしてみました。

 

試しに1kHzのサイン波を流してWaveSpectraで見てみました。

これが「倍音が出てる」ってやつでしょうか。


実際にこのアンプを通した音を聴くと何となくいい音になったような気がします。
ということで完成!…と言いたいところなのですが、Nutubeアンプを通してオーディオIFに戻した音を確認していて気付きました。

 

「これ、位相反転してんじゃん…」

 

実は、この増幅回路ではNutubeを通ったときに波形の位相が反転します。(『実は』なんて言うような話でもないですが)

本当はオペアンプで反転させる設計にしときゃよかったんですよねこれ。
まあ位相反転くらいオーディオIFで対処できるからいっか…ということで運用でカバーしていますが設計失敗しているものをそのまま使っているのはあんまり気持ちよくないです。

あと、組んでいるときに思ったのですが、使うアダプタが5Vならフィラメントの電源もアダプタから取ってくる方が楽ですねこれ。フィラメントは41Ωなので5V電源ならフィラメント抵抗を250Ωにしてあげればよさそう。グリッドバイアス抵抗は33kΩ→20kΩにして可変抵抗の前か後に10kΩの抵抗を付ければいい感じそうな気がします。

あんまり良くなかった点もいくつかあったので、また気が向いたら改良版を作ってみたいと思います。

あと基板の作り方が全然分からないので直した方がよさそうな所があったらアドバイスください。

XP-Pen Artist 13.3 Proを4か月使った正直な感想

今年XP-Pen Artist 13.3 Proを購入して4か月ほどガッツリ使い、その後XP-Pen Artist 16 Proに乗り換えました。
XP-Pen Artist 13.3 Proの良かったところと悪かったところを書いておきたいと思います。

 

良かったところ

・安い

XP-Penは月に1回くらいの頻度で割引セールをしていて、2022年時点ではArtist 13.3 Proはセール期間であれば3万円を切る値段で売られていることが多いです。

・最初から保護フィルム貼られてて台とかグローブとか付属してるのはいい感じ

特に2本指グローブが付いてたのが良かったです。板タブを使っていた時にはあまり欲しいと思ったことはなかったのですが、液タブだと画面が汚れるので素手で描くのはだいぶ嫌な感じがします。台は角度調節不可ですがコンパクトで邪魔になりません。

・新品を3万弱で買ったけど売るときは2万↑で放出できた

2022年10月時点では状態の悪くないものであれば中古相場は2万円を超えているので、完品状態を保っていれば悪くない値段で売れます。人気機種で流通量もそこそこあるようなので買ってくれる人を長々と待つこともなく即売れで放出できました。この辺の状況は時間が経てば変わってくるとは思いますが、今の時点ではリセールバリューが高いので気に入らなくても気軽に売れます。

・性能はそんなに悪くない

不満が出てきたことで売却した事実はありますが、値段を考えれば普通におすすめできる程度の性能ではあると思います。液タブの入り口としては必要十分な能力があると思います。


不満に感じたところ

・本体ボタン類、ドライバユーティリティソフトが信用できない

この液タブを買った当初は本体のボタンやホイールを使って絵を描いていましたが、色々と凝った設定をしても翌日になると全ての設定が消えています。設定をファイルに保存したりロードしたりもできるはずなのですが、これで設定を復元できたことは一度もないです。ペン側の設定も毎日消えます。(この辺はおま環の可能性もある気はします)
もしかしたらWindows11にするといい感じに動くかもしれませんが、OS切り替えのタイミングで音楽制作環境崩壊という体験を今まで何度もしてきたので出来る限りOSはWindows10から動かしたくないのもあり、毎日作業開始前に設定を直すのはしんどいので本体ボタン等は使わないようになりました。
秋頃に一度ユーティリティソフトの見た目が大きく変わるような大きいアップデートが入ったのですが、動作に関しては特に変わりありませんでした。

・ON荷重が12gとやや大きめで、筆圧ゼロ判定されるラインがやや高い

描くことに段々慣れてくると、強弱をつけたメリハリのある線を描こうとしたときに弱の部分の表現が難しいことが気になってきました。
これは「ON荷重」という数値がやや大きいことが原因で、「ON荷重12g」だと12gの筆圧がかかるまで描いた判定されません。普段から軽い筆圧でサラサラっと書いているようなタイプの人だと相当違和感のある書き味だと思います。
最初はその辺りは慣れとか設定で何とかなるかな?と思っていましたが、結局筆圧による強弱の表現はほぼせず全体的に強めの筆圧でガリガリ描く描き方になっていきました。16 ProはON荷重3gなので乗り換えたことで相当描きやすくなりました。

・応答速度が遅い

ネット上の液タブスペック比較記事を見ると「13.3 Proの応答速度は14msと速く優秀」ということで薦めている記事が多いのですが、この応答速度は(多分)嘘です。
13.3 Proの製品ページでは『反応時間』が14msとありますが、XP-PENの「製品比較」ページでは『応答速度』が30msとなっています。
英語版サイトでは「反応時間」も「応答時間」も「Response Time」として表記されていて、製品ページでは「Response Time:14ms」、スペック比較ページでは「Response Time:30ms」です。
当初はPCやお絵描きソフト側で遅延している可能性を疑っていましたが、16 Proに換えたところ明らかに反応速度が改善したのでこの数値は実際には30msかと思われます。

・レポートレート(スキャンレート)についても物凄く怪しい

買い替え前には13.3 Proのスペックシート上の数値を全く疑っていなかったので13.3 Proを実測した数字が手元にないのですが、ペイントソフト上で文字を素早く書くとレポートレートが13.3 Proより低いはずの16 Proの方が明らかに正確に描画されます。
これは16 Proのレポートレートの方が優れていることを示唆していて、実機の描画の差を見ると13.3 Proが仕様通りの性能が出ていたと思えなくなりました。
もしくは最近の機種になってレポートレートの測り方が厳しくなったのかもしれませんが、13.3 Proと16 Proの間には製品比較ページ上の数字に疑問を感じざるを得ないレベルの性能差があります。


最悪

・上記の応答速度の件で問い合わせたが明確な返答がない

応答速度の件について、この記事を書く1週間以上前にXP-Penのサポートに「これどっちの数字が正しいんすか?」という問い合わせメールを送っていますが、問い合わせから数日後に「製品部に確認しております」と返答があったのみでその後進展がありません。
「ごめん悪い方の数字が正しいわw」程度の返答が返ってくると思っていたのでこの対応には正直驚いています。製品仕様、しかも非公表データではなく自ら公表している数値について問い合わせただけで返答に詰まるメーカーなんて有り得るか?って話です。

16 Proのコスパに感動していた時は次の液タブを買う時も当然XP-Penでと思っていましたが、正直なところこの1件でXP-Penはないなという気持ちに変わりました。

 

別にネガキャンをしたくて記事を書いたわけではないので、まともな返答が返ってきたら速やかに記事を更新します。

 

2022/12/12追記
「Artist 13.3Proの応答速度14msって書いてあるけど?」と指摘をうけたので見に行ったところ、30msと書かれていたところが14msに修正されていました。
サポートからの返答は一切続報がない状態ですが、なんかサイト側は修正されたみたいです。
13.3Proのレポートレートや応答速度については、特に実際に16Proを買ってきて比較すると「ぶっちゃけこの数字は嘘でしょ」という思いしかないので、
買ったモノそのものには満足しているのにメーカーの姿勢にどうしても文句を言わなければならない感じになってしまい複雑です。

差動2段ヘッドホン・アンプの製作その1

木村哲(ぺるけ)氏の著書「続 理解しながら作るヘッドホン・アンプ」で作り方が紹介されている「差動2段ヘッドホン・アンプ」を製作しました。

とりあえず本に書いてあった通りに組みました。ぺるけ氏のサイトに多少の訂正情報がありましたので、そちらも見つつ工作しています。
(綺麗な写真が撮れましたが、この写真の個体はめちゃくちゃ適当に組んだせいでうまく動きませんでした。2個目の製作でまともに動くものが組み上がりました)

 

前回記事を書いた「FET差動バッファ式USB DAC V2」はいい感じの音が出てくるまで結構な期間がかかりましたが、こちらは数日の慣らし運転で音が落ち着いていい感じになりました。

 

「FET差動バッファ式~」と比べると少しドンシャリ感があり低音が元気よく出てくる印象で、ふだん愛用している静電型や開放型のヘッドホンで低音を気持ちよく楽しむことができました。低音が強く出る密閉型のATH-M50Xで聴いてみてもそれほどうるさくなる感じでもなく、エネルギッシュな音でいい感じです。

→(数か月使ってみた結果、「FET差動バッファ式~」もこちらも同じような感じの音に落ち着きました。本機についての『少しドンシャリな印象』も今は特にないです)

 

原価を考えると信じられないくらい音がよく、単純なリスニング用途としては音楽制作時に愛用しているRME Fireface UFXよりも解像感が高いと断言できます。
(UFXに関しては長年愛用しているので少し物理的にへたってきてます。音出ないチャンネルとかあるしそのうち修理出したい…)


製作の感想

特にトラブルがなければ10時間程度で回路部分は一通り組み上がると思います。
週末の工作くらいのノリで挑めるのではないかと思います。

ぺるけ氏指定のTakasuの基板を使って工作を行いましたが、工作開始前に裏で繋がっているラインをこんな感じでなぞっておくと組み立て時もトラブルシューティング時もやりやすいです。


また、リード線を這わせたら紙の方に蛍光ペンでマークしていましたが、這わせたはずのリード線が数ヶ所はんだ前に外れて消えていました。配線のチェックについては実際のはんだ付けのタイミングでやった方がいいかもしれません。
「外れにくいように基板裏面に長めに足を出す」という考えもありますが、それはそれではんだ時に意図しないショートが起きる可能性が高まりますので手としてはあまり良くない気がします。(FET差動バッファ式USB DAC V2の製作ではこれが原因のショートを発見するのに時間がかかりました)


部品数はそこそこ多いですが、素子の選別をする必要がなく書いてある通りに部品を付けていくだけで完成するのはお手軽感がありますし、完成直後から結構いい感じの音で鳴るので満足感の高い工作になりました。

FET差動バッファ式USB DAC Version2の製作

f:id:chile-in:20220208222438j:plain

タイトルの通りです。

■製作する「FET差動バッファ式USB DAC Version2」について

DIYオーディオの有名サイト「情熱の真空管」で製作法が紹介されているDACです。
PCからUSBケーブルで接続するとバスパワーでDACとして機能します。
実際に制作した方のレビューを見てみてもなかなかいい感触みたいです。

 

■部品の用意

回路図や基板パターンが公開されていますので、そこに書いてあるものをそのまま揃えれば部品が用意できます。
…という書き方をしてしまうと乱暴で嫌な感じになってしまうので参考情報ですが、
ぺるけ氏が以前パーツを頒布されていた頃の頒布情報ページで抵抗器以外の必要部品は一通り確認できます。

抵抗器に関しては、自分は秋月の抵抗器全部入りセットを買ったところ回路中のほとんどの種類(16kΩ以外)は揃いました。16kΩもセット内から抵抗器を2本使えば作れます。
DAC一個できればそれ以上の部品は全くいらない」という場合にはやはり回路図や基板パターンをじっくり眺めて必要な抵抗をリストアップしていく必要があると思います。

 

■製作記事からの変更点

様々なサイトで横断的に部品を注文していくのは面倒だし送料も増えるし部品の注文抜けも起こりそうで嫌だったため、基板と銅線のみモノタロウ、他は全て秋月から注文する形で部品を揃えることにしました。とはいっても指定されている通りの部品を秋月ですべて揃えることはできなかったため、以下のように部品変更して組んでいます。

 

2SK30A → 2SK2880-D(定電流回路目的なので2SK30Aじゃないといけない理由はなさそう)
2SK117 → 2SK2881頒布案内ページの情報を参考に代替)
2.7mHインダクタ → 2.2mHインダクタ(2.7mHインダクタは特注品で秋月では取扱なし)

ぺるけ氏指定の2.7mHインダクタについては特殊電機にて取り扱っているようなので、
製作記事に忠実に作る場合はそちらを選択することができます。

 

2SK30Aに関しては秋月に売っていなかったため2SK2880を代替として使用しました。
製作後に気付きましたが、定電流回路については本記事で製作している「FET差動バッファ式USB DAC V2」を用いた別のDACUSB DAC+Bluetoothレシーバー Version3.0」の記事にてもう少し情報が補足されています。

本機の定電流回路の電流値は必ずしも3.6mA~3.8mAでなければならないのではありません。たまたまそれくらいのIDSS値の2SK30Aが多いからその値を選んだにすぎません。

とのことで、さらに補足として記事で書かれている範囲外のIDSS値の場合のドレイン抵抗についても書かれており、「2SK2881でも代用できる」とも書かれています。

私が入手した2SK2880-Dのドレイン遮断電流(=IDSS)は2.5~6.0mAと書かれていますが、入手した10個中6個が4.3mA程度、4個が3~3.5mA程度でした。
IDSS値を測定するための回路はこのページを参考にしました。

 

作業に関しては手に入れた部品を製作記事の基板パターンの通りに組み上げただけなので割愛します。


注意点として、2SK117→2SK2881に部品を替えて製作する場合は基板パターンの2SK117の半月型の絵と逆向きに2SK2881を取り付ける必要があります。(データシートを見ると2SK1172SK2881で足が逆向きなのが確認できます。パターン図上のS・G・Dの字に従って取り付けます)

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製作記事と同様にAKI.DACから電源を拝借する形で作ろうとしましたが、何かやらかしてしまったらしく製作途中から電源を拝借するとAKI.DACが落ちるようになってしまったため、別途5Vの電源アダプタから電力を供給する形に変更して動かしています。

追記:これは電源線を何度か付けたり外したりしているうちに近くの銅線の基板裏側部に出していた部分が曲がってショートを起こし、ポリスイッチが作動していたためでした。ショートしていた部分を直したところUSB給電で動くようになりました。

■感想

OUTPUTをヘッドホン端子にして音を聴いてみたところ、手元にあったATH-M50X(38Ω)では十二分な音量を得られました。AKG K701(62 Ω)で十分な音量を得ようとすると歪んでしまったので、能率の悪いヘッドホンに直結というような使い方は少し苦しいかもしれません。

いまのところ特性を測定できる環境が揃っていないので100%主観での感想になりますが、ものすごくフラットな音です。ノイズレスで音の分離感も悪くないのですが、悪くない止まりというか、手持ちの機材の中でわざわざこれを使って音を聴きたいかというと微妙程度の印象でした。
同じぺるけ(木村哲)氏の著書「続 理解しながら作るヘッドホン・アンプ」の「差動2段ヘッドホンアンプ」も同時に作っているのですが、差動2段ヘッドホンアンプの方が魅力的な音をしているように感じます。
(こちらも後日記事を書きたいと思います)

 

同じ回路を制作した方の製作記事では「完成直後の音は思ってた以上にがっかり感ある」というような評を見かけたので数日したらこの印象が変わるような音に変わっているかもしれませんが、今回の製作では2.7mHインダクタも2SK117も使っていないので本来の設計通りの音は出ていないのかなという気もします。

 

(追記)耐えがたいくらい出音がつまらなかったため実はこの文章を書いた翌日(エージング3日目)に一度見切りをつけて放棄してしまったのですが、1週間ほどして気持ちがフラットになってきた頃、記事を公開しようと思い再度電源を入れてみたところ当初と印象が大分違う音に変わっていました。低音の量感が増したのと明らかに音の分離がよくなっています。現状少し低音に締まりがない印象がないでもないですが、もう少し動かしてみて出音が安定するのを待ってみようかと思える程度に期待感のある音を出し始めています。最初に動かしたときと本当に印象が違いすぎて驚いています。

Hifiman Jade II を買った話。

2020年頃から少しお高いヘッドホンが気になっていたのですが、いろいろ見ていたところ静電型ヘッドホンという存在を知ってしまい、勢いで購入しました。
それまで使用していたヘッドホンはAKG K702、audio-technica ATH-M50xあたりなので音に関する感想は完全に素人レベルです。

■静電型ヘッドホンって何?って話

普通のマイク(ダイナミックマイク)の他にコンデンサマイクやリボンマイクが存在することはマイクに少し興味がある人なら聞いたことがあるかもしれません。
マイクとスピーカーは「音(振動)→電気信号」「電気信号→音(振動)」の変換器なので、お互い動作原理は同じです。中学物理でいう「電流流したらモーター動いた」「モーター手で回したら電流出た」ってやつですね。

コンデンサマイクが存在するということは逆にコンデンサスピーカーが存在できるということで、静電型ヘッドホンというのはコンデンサマイクと対になる音声出力装置になります。(なら「リボン型ヘッドホン」なんてのもあるのかなと思う人もいるかと思いますが実際に存在するそうです)

コンデンサマイクがマイクとして作動するためにファンタム電源を必要とするのと同様に、静電型ヘッドホンも動作のための別途電源が必要です。そのため、普通のヘッドホンのように再生機器のヘッドホン端子に静電型ヘッドホンを直接接続することはできず、間にアンプを挟む必要があります。

■注文〜届くまで
国内に在庫のあるショップが特に見当たらなかったので、ステータスが「取り寄せ」になっていた某カメラ販売店のネット通販サイトより購入しました。
8月の頭に注文したところ「メーカー(代理店?)のお盆休暇に直撃しているため盆明けまで納期不明」、「メーカーから品薄と聞いている」等の心配になる連絡が来て少し心細い気持ちになりましたが、盆が開けた瞬間に納期は8月下旬との連絡が来てその通りに届きました。
注文からだいたい3週間程度での到着ということで、間に日本の販売店が挟まった中華通販と考えれば割と納期は早い方かなと思いました。同じような時期に同じ製品を買った方が納期1ヶ月半だったみたいな話もツイッターで目にしたので、販売店さんが頑張ってくれたかタイミングの問題で運よく早く届いたケースかもしれません。
■家に届いた第一印象


身長5mくらいある人向けのヘッドホンを間違えて買ったのかなと思うくらいでかいです。
アンプがでかくて重いというのは聞いていたのですが、ヘッドホン部分もそれまで自分が使っていたやつの倍くらいありました。
自分はでかいガラクタを部屋に設置するとテンション上がるタイプの人間なので幸せなのですが、
逆に心の底からうんざりする人もいるだろうなと思わざるを得ないサイズ感なので、興味がある人は可能であれば実物を見てから買った方がいいと思います。
アンプはほんとに重いので卓上に設置するのは少し躊躇します。

■音

普通にいいです。(それまで持っていたヘッドホンの10倍くらいの価格なので当たり前といえば当たり前ですが)

「静電型の宿命として低音が弱い」という評判はよく見ましたが、EQをかけても物理的に低音が出ないというわけではないので、ブーストすればある程度フラットになります。

とはいえ素の状態では低音がやや弱い感じは否めないですし、

(https://alpha-audio.net/review/live-stream-replay-multi-test-headphones/3/ より)
この辺の情報を見てみた感じとしては、正確な低音の再生という点ではやや難点があるのかなとは思います。ハイエンドのヘッドホンは他に1つも持ってないので低音の特性が良好な機材と聞き比べてみたいところです。

情報量に関しては流石に豊富さを感じます。それほど劇的に音の解像感が上がったというような感覚でもないのですが、音が横方向に従来比1.5倍ほど広がった感じというか、各楽器がよりはっきりと分離して聴こえます。

色々と手持ちの音源を聴いてみると、比較的最近の音源よりは少し古いジャズみたいな音源で今までの環境よりも特に気持ちよく聴こえるようになった気がします。
オーディオ趣味の人が高価な機材で古い音源を好んで聴いているのが正直よくわからなかったのですが、実はこういった音こそ原音を再生する能力の差が出てくるのかもしれません。

持ってるCDでいうとJohn ZornのNews for Luluなんか正直レア盤扱いになってるからみんな過大評価してるのでは?くらい思っていたのですがJade IIで聴き直してみるとめっちゃ気持ちよかったです。Hank's Other Tuneとかめっちゃいい曲、いい演奏ですね。
魅力がわからなかったアルバムといえばHoward RobertsのAntelope Freewayなんかもいい感じに聴けるか!?なんて思って聴き直しましたがこの辺はまだ少し厳しそうです。というかこのCDと和解するのは一生無理かもしれません。

気持ちよく聴けるようになった音源がある一方で、以前のヘッドホンでは音の悪さは特に感じていなかった音源が残念に聴こえはじめることもありました。悪い音源は18万のヘッドホンで聞いても1万の音からグレードアップしないというか、安い機材で聴いた時のリスニング体験からの伸びしろがないですね。

今のところ「静電型はスピード感がすごい」とか「高音のきらびやかさ」といった他のレビュアーがよく言っている表現に該当する感覚は特に感じていません。もう少し耳を慣らすかエージングの必要があるかもしれません。